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2. 母親のカウンセラー役

小学校3年生~高学年の頃には、私は母親のカウンセラー役を務めるようになっていた。

母は専業主婦だったので、私は小学校から帰ってくると手作りのおやつを食べながら、父と祖母の悪口、母自身の身の上話を聞かされる毎日だった。

おきまりのパターンはこうだ。

父親は一人っ子だからわがままだ。
祖母も一人っ子だからわがままだ。
実家に帰りたくても、母の両親はなくなり帰れる場所がない。
母の両親が生きていたら、結婚を急ぐこともなかったのに。
離婚したくても、経済力がないからできない。これからの女性は仕事をしなければダメだ。

このパターンが事ある事に何度も 何度も繰り返された。

私も、実母の身の上は気の毒だと思うが、実母の「一人っ子だからわがまま」と言う思考回路は、子供心にも非常に嫌だった。
私自身は、父も祖母も一人っ子の友達もわがままと思ったことはない。
父も祖母も、本人が望んで一人っ子になった訳ではないのに、本人が努力して変えられない「一人っ子」を理由に「わがまま」というのはおかしい。
どうしても父や祖母をわがままと言いたいなら、単純に「性格がわがまま」と言うだけで良いのに、と子供の頃からずっと思っていた。

妹はおやつを食べ終わると、さっさと自分の部屋へ逃げた。
妹は「その話、もう聞いた。」と突き放す事もあった。
私だって大好きな実父や祖母の悪口を聞きたくはないのだが、いつも私は逃げそびれ、その場を抜け出すことができなかった。

実母は、部屋に逃げる妹を見て
「Nちゃん(妹)はああやってすぐ部屋に行くのよ。頼りにならないわね。おばあちゃん(祖母)に似ているのかしら?」
「やっぱりお姉ちゃんは頼りになるわね。」
「やっぱりお姉ちゃんは違うわね。」
妹はずるいな、要領がいいなと思ったが、私が我慢して実母の話を聞いてあげれば、妹より私を気にかけてくれるだろうか、と思った。
不幸な母親のカウンセラー役が出来るのは私しかいないとも思っていた。

…この話にも、後日談がある。
7月、モラ夫から逃げて実家に帰った私に、実母は過去の話を蒸し返して私を責め立てた。
モラ夫に毒親のダブルパンチで心底苦しくなった私は、カウンセリングを受けた。
カウンセラーの先生は、モラ夫の言動に驚き、私の話を受け止めてくださった。
先生の暖かい言葉の数々に、私は思わず
「その言葉、実母から言われたかったことです…。」
と言った。

そして、先生に、実母の話をした。
「私は、何で長い間実母のカウンセラー役ができたんでしょう。」
と聞くと、先生は
「子供の頃は親に頼るしかできないから、カウンセラー役をするしかなかったんでしょう。でももう、お母さんの事はいいんじゃないかな。今はひとりでも生きられるのだから。」

私は学生時代、実母に早く自立しろ(=家をでていけと等価)と毎日のように言われていて、就職して早く家を出なければと思って過ごしていた。本当に辛かった。
でも、一人暮らしを始め、結婚し、長い年月が経つうちに、自立した時の喜びをすっかり忘れていた。

そうだ、今はもう、ひとりでも生きられるんだ!

先生の暖かい言葉に、心の曇りが晴れていくようだった。